コラム
ミャクミャクの魅力大解剖【広告代理店視点で読み解くキャラクター力】

今年10月、惜しまれながら閉幕した2025大阪・関西万博。
その盛り上がりの中心にいたのが、公式キャラクター「ミャクミャク」です。
登場当初は「気持ち悪い?かわいい?」「何この形、何者?」とネットがざわつき、賛否が大きく分かれて話題になりました。
私自身も「なかなか攻めたキャラクターだな…」と思ったのを覚えています。
ところが、万博が進むにつれて状況は一変。
「なんだか気になる」「じわじわ好きになってきた」という声が増え、最終的にはグッズ売上800億円を記録するほどの人気キャラクターに成長しました。
なぜあのちょっと奇妙なキャラクターが、ここまで多くの人に受け入れられたのか。
その背景にはきっと、緻密に設計されたキャラクター戦略があるはず。
今回は、ミャクミャク人気の“仕組み”について、広告・ブランディングの視点から掘り下げていきたいと思います。

デザインに込められた意図
ミャクミャクを生み出したのは、イラストレーター・絵本作家として活躍する山下浩平さん。
1898点もの応募作品の中から採用されたデザインで、万博ロゴの要素やテーマをベースに再構築する形で誕生したそうです。
山下さんが目指したのは、
「美しくてかっこいいキャラ」ではなく
「どこかぎこちなく、不思議で、でも親しみがある存在」
色にもしっかり意味が込められていて、
赤 = 細胞・増殖・生命の源
青 = 水・流動・変化
というコンセプトを組み合わせ、「生命 × 変革 × 多様性」 をキャラクターに落とし込んだ設計になっています。
いろんな要素が混ざっているようで、ひと目見た瞬間に“ミャクミャクだ”と分かるキャラクターになっていると言えます。

忘れられないシルエット
強烈な赤 × 青のコントラスト、複数の球体が融合した独特のシルエット。
ミャクミャクを見たことがない人でも、形状や色の説明だけで「あぁ、アレか」と思い出せるほど、記憶に強く刻まれます。
・強烈な赤 × 青のコントラスト
・複数の球体が融合した独特のシルエット
・人間にも生き物にも物体にも分類できない形
キャラクターは「かわいさ」や「親しみやすさ」が重要と思われがちですが、広告の視点では「識別されること」「記憶に残ること」が最初のハードル。
ミャクミャクは、「見慣れたかわいさ」ではなく、あえて “忘れられない異質さ” を武器にすることで、圧倒的な“記憶に残るキャラ”になっていると言えます。

ネーミングと世界観
・発音がかわいらしく耳に残りやすい
・ひらがな表記がキャラクターの雰囲気にマッチ
・“脈々と受け継ぐ”という意味で万博テーマを回収できる
・一語でキャラクター力とコンセプトを両立
名前そのものがキャッチコピーの役割を持っていて、
音(ミャクミャク) → 見た目 → 生命・継承 という物語が一気にイメージできる設計になっています。
展開のしやすさ
豊富なグッズ展開も大きな魅力でした。
ぬいぐるみやキーホルダーといった定番アイテムはもちろん、ミャクミャク × サンリオといった人気キャラ同士のコラボグッズも争奪戦となりました。
・着ぐるみ・アニメ・グッズへの転換が自然
・形をデフォルメしてもミャクミャクらしさが失われない
・“分裂・変形・巨大化”など物語拡張が無限
・コラボ空間・フォトスポットでも存在感が出せる
万博が終わった今もなお、ミャクミャクとのコラボグッズは数多く展開されています。
新作が出るたびに話題になり、ファン層が広がり続けているという点は、キャラクター戦略として大きな強みと言えるのではないでしょうか。

気付いたら好きになっている仕組み
ミャクミャクの人気は、ただ「かわいいキャラだから」ではなく、「好きになってしまう」までの導線がしっかりと作られていたと感じます。
▼「感情の成長フェーズ」に沿った導線
1)ビジュアルと名前で「気になる・忘れられない」をつくる
2)キャラ設定やストーリーで「もっと知りたい」を引き出す
3)イベントやグッズで「関わってみたい」「持ちたい」を叶える
4)SNS・二次創作で「共有したい」「広めたい」に繋げる
意図的にファン化を狙うというより、気付いたら好きになっていて追いかけている。
そんな感情の変化が起きやすいキャラクターになっているのだと思います。
まとめ
・ひと目で記憶に残るビジュアル
・世界観とコンセプトを自然に結びつける名前
・デフォルメ・変形・コラボなど展開しやすい懐の深さ
・“気になる → 好き → 参加したい → 発信したい”と感情が育つ導線
これらが重なることで、最初は「なんだこのキャラ?」から始まった人たちが気付くとファンになっていた—
そんな現象を生み出したのだと思います。
人気は偶然ではなく、積み上げられた必然。
ミャクミャクはまさに、その成功パターンを体現したキャラクターだと思います。
これから先、ミャクミャクがどんな形で存在し続けるのか…まだまだ楽しみです。